「天風録」 中国新聞から引用

「天風録」 2014. 2. 23 (日)
 私が人生に何かを期待することはできない。私の方が人生から絶えず、問われている存在だからだ。オーストラリアの精神科医ビクトール・フランクルは言う。ホロコーストの生還者だった。
 「最後のパン」を分け合う優しき同胞の姿を知る人。著作「それでも人生にイエスと言う」が大震災の後、判を重ねる。人が絶えず問われる存在なら、どんな未来も今恐れる必要はないー。その言葉は重くとも今明るい。
 アンネ・フランクも未来を信じた。キティーと名づけた日記帳に「じゃあまた」とおやすみを言う。私だって大人よ、と家族との葛藤をつづる15歳はほほえましくも映ろう。その「アンネの日記」や関連書籍が都内の図書館で多数引き裂かれいた。
 作家小川洋子さんは20年前、アンネの足跡を欧州に訪ね。収容所跡へ。遺品の靴がうずたかく積まれた部屋に驚き「無数ではない、無数ではない」と心に言い聞かせた。その一足一足には生きた証があるはずだから。
 図書館の蔵書を傷めること自体マナー違反だが、誰が何ために、15歳にして日記帳のペンを奪われたアンネの生きた証まで、引き裂こうというのだろうか。その「罪」の深さを心に問うてほしい。