「天風録」中国新聞から引用

「爆笑シーンはこの後すぐ」とでも聞くと、もういけない。つい2時間、3時間と過ごしてしまう。先週あたりまで長尺番組のオンパレードだったテレビ欄がやっと元に戻ってきた
 ボーっと眺めていると気が紛れる。おととい訃報に接した詩人吉野弘さんは、テレビの時間を時に「慰安」と呼んだ。手元の詩集にこんな詩句がみえる。「慰安が/さみしい心の人に吹く。/さみしい心の人が枯れる」「なやみが枯れる。/ねがいが枯れる」
 番組中にあふれ返る笑いも涙もそれっきり。頬が乾けば、次の番組を探す。心の上っ面をなで、さするばかりで、人生の相棒にもなる悩みや希望まで根腐れしてしまわないか。自省を込めた問い掛けだろう
 その返事なのか、脚本家山田太一さんが3・11後にドラマ「キルトの家」で吉野さんの一節をせりふにしたのを思い出す。会社の定年式で男が一人、立ち上がる。「諸君/魂のはなしをしましょう/魂のはなしを!」
 震災に立ちすくみ、もじきき3年になる。日本丸の針路はいまだ定まらない。「魂のはなしを!」とうずうずしている乗客もいよう。ドラマに増して含みのある詩集をいま一度、ひもといてみる。
                                        2014・1・22