「天風録」 中国新聞から引用

「天風録」 2014. 2. 20 (金)
 津波が越えなかった峠だから、「越路」。大きな船が流れ着いたから、「大船沢」となった。大震災で被害を受けた宮城県には、津波に関わる地名が多く残る。先人が孫や子のために、地名に戒めを込めたのだろうか。
 「言い伝えや記録にもっと学んでいれば」。そう嘆くのは山内宏泰さんだ。気仙沼市にあるリアス・アーク美術館の学芸員、自身も被災して仮設住宅に住む。館は国内でただ一つ、被災地に残されたものを常に公開する。
 そこには泥だらけのランドセルが、ゲーム機が、炊飯器が、山内さんが現場を歩き、拾い集めた。持ち主は分からないが、使っていた人が発したかもしれないメッセージが添えられる。
 携帯電話の横には、話なんかしてないですぐ逃げればよかったー。ビデオテープの傍らには、子供の成長も家族旅行の思い出も全部流されたねー。折に触れて耳にした悔やむ言葉や嘆きの言葉を、山内さんは紡ぐ。
 物は自分で言葉を発するはずもない。想像と現実はたとえ違っていたとしても、誰かがくみ取り、伝えるべきだと思ったという。家族や家を失った人たちが何度もここに来る。土地は警鐘を鳴らし、物は記憶をつなぐ。それぞれに役割がある。