「天風録」中国新聞から引用

「天風録」 2014.1.30(木)

  キリンの群れに見える。呉湾沿いの造船所に、にょきにょきと立つクレーン。その眺めを撮り続ける写真愛好家の女性を取材したことがある。いくつもの首の長いシルエットが夕日に浮かぶ一枚は幻想的で、今も忘れられない。
 ここ最近は都市の真ん中に群れているようだ。とりわけ再開発が動き出したJR広島駅の周りはにぎやかである。「景気のバロメーター」と呼ばれる理由が一目で分かる。
 むろん、国内の最大生息地は都市に違いない。あちらこちらで、見上げるような高層マンションが天空へ延びていると聞く。なかでも東京五輪の会場になる湾岸部は、威勢にいい話で持ち切りらしい。
 調教師と呼べば失礼かもしれないが、その「キリン」を操る作業員が全国で不足しているという。東北の震災復興やアベノミクスの公共事業・・・・。縮み続けていた建設業界は今や、人件費の高騰にあえぐ。とても割に合わないと公共施設では入札不調が相次ぐ事態に。
 原始的な起重機は紀元前の時代から使われていた。それを改良した今のクレーンの原型を、かのレオナルド・ダビンチがスケッチに残している。偉人倣い、日本列島の設計図も引き直しの時だろうか。